264人が本棚に入れています
本棚に追加
/169ページ
美月は姿勢や向きを直そうとしたが、やはり遼佑は無反応だった。
そしてまた美月は、遼佑の視線だけを感じた。左のヒップを経て、わき腹を上がる。少し背中を通って肩に登る。見られている左側だけが熱い。味わったことのない緊張だが、美月には心地がよく感じられた。
「ありがとう。もういいよ。っと時間だよ」
遼佑はスケッチブックを仕舞うと、寂しそうに微笑んだ。
「あ、はい。じゃあ、また来週」
美月がそういうと、遼佑の表情がパァッと明るくなった。
「じゃあ、また来週」
そう言う遼佑は、子供のように無邪気に微笑んでいる。美月はこれで少しは役に立つことができたのかもしれないと、ホッとした気持ちになっていた。
「はい。宜しくお願いします」
そう言いながら、美月はコートや荷物を持つ。遼佑が勝手口まで、見送りに来てくれた。
「来週は何したいか、お互いに考えておこう」
遼佑はそう言って、爽やかな笑顔で手を上げた。
勝手口を出ると迎えの車が待機していた。美月は頬の緩みが戻らないまま、車に乗り込むと短く挨拶して下を向いた。
「お疲れ様でした。どうでしたか?」
美月の表情に、瀬木はすぐに気が付いたようだった。
「デッサンのお手伝いを・・・」
その言葉に、助手席にいた瀬木が振り向いた。
最初のコメントを投稿しよう!