264人が本棚に入れています
本棚に追加
/169ページ
「デッサンって! あなたをモデルにデッサンしたんですか?」
美月は最初に『絵のモデル』と説明されていたから、せめてそれができて良かったと思っていた。
「ええ。そういう話でしたし・・・それが何か?」
瀬木は「でも」と言いかけて何かを飲み込んだ。
「そうですか。それではお約束が増えます」
美月は正直、またかと思いながら頷いた。
「上条の描いた絵はデッサンといえども、一切、ご覧にならないでください」
美月は今日の遼佑のデッサンが気になっていた。あんなに見つめられて自分は遼佑にどう映ったのか、どんな顔をしていたのか知りたかった。ごく当たり前に気になることではあったのだが、立場上ただ頷くしかなかった。
そして瀬木は不穏な雰囲気に気を利かせたのか、話を変えてきた。
「二階の部屋は、すぐお分かりになりましたか?」
「あ、りょ・・・上条さんが玄関ホールまで、迎えに来てくれました」
美月も明るく答えたつもりだった。だが、瀬木の顔が強張っている。
「そうですか」
そう言って顔が引きつっている。何かいけないことを言ったのだろうか、と美月はオロオロしていた。しかし瀬木は行きも付けたサングラスを渡して付けるように言うと、もう美月の方には振り向かなかった。
最初のコメントを投稿しよう!