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遼佑が白いニットのキャンディのように絞られた袖を触った。美月は心を覗かれたようで、恥かしかった。
「流行ってるんですよ」
美月が照れ隠しにそう言うと遼佑は「へぇ」と言って後ろに廻った。そして美月の肩を両手で掴むと、後ろから囁いた。
「早く行こう。今日は朝から描きたかったんだ」
美月の感じたことのない感情が膨らんでいく。
「でもまずは珈琲にしよう」
美月は後ろを振り返ることも出来ず、ただ小さく「はい」と答えた。
ウッドデッキで珈琲を頂きながら、美月は今朝の瀬木のことを思い出していた。待ち合わせ場所まで行くと、瀬木と冠木はあの可愛らしい車でもう着いていた。車から降りていた二人は、お似合いのカップルのように見える。二人は美月が近づいていることに気が付かずに、何か話していた。美月が二人の声が届く所まできた時、冠木が眉間に皺を寄せて険しい顔をして言った。
「作品のためだ」
「わかってるわよ」
瀬木は苛立ったように、冠木にその言葉を吐き捨てた。そして二人は美月に気が付いて、取り繕うように笑った。挨拶もそこそこに美月が乗り込むと、車はすぐに走り出した。また先日と同じJ‐POPが陽気に流れている。美月は瀬木に何か言われるまえに、サングラスをかけた。
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