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程なくして、目の前に見たことの無いほどの星空が映し出され、オーロラがカーテンのように揺らいでいる。丘のような場所には小さな小屋が見え、屋根に掲げられた十字架がそれが教会であることを教えていた。そんな作られたジオラマのように見える美しい光景ですら、美月の心には入って来なかった。瀬木の苛立ちの原因が、自分にある気がして美月の心に引っかかっていたのだ。
「どうしたの?」
遼佑が、庭をぼんやりと眺めながらフリーズする美月を気遣った。
「いえ、あ、上条さん」
遼佑は在らぬ方向を見て、知らんふりをする。
「じゃなかったです。・・・りょすけ」
「なあに?」
テーブルを挟んだ隣に座る遼佑が、嬉しそうに身を乗り出す。
「瀬木さんって、りょすけのお仕事手伝って長いんですか?」
「あぁ」と言って、遼佑はつまらなそうにテーブルから身体を離して、腕組した。
「千佳ね。元々、俺の母親の知り合いの娘さん。小さい時からの知り合い」
美月は、遼佑が「千佳」と呼び捨てたことに驚いた。しかし、身近な人間だからこそ、こうやって人間嫌いになった遼佑の仕事を手伝えることに納得した。
「そうだったんですか。それで何でりょすけの仕事を?」
「俺の絵が好きだから手伝わせてくれって。丁度、他のスタッフが辞めた後だったから」
なるほど、と美月は思った。遼佑の絵が好きだというのは言い訳で、本音は遼佑自身に想いを寄せているから、あれほどまでに真剣に守ろうとしているのであろう。
「とっても可愛い人ですよね。なんかこう、守ってあげたくなるような」
「そう?」
美月が言い終わらないうちに、そう遼佑が遮った。美月が咄嗟に返す言葉を見つける前に、遼佑がまた怪しげに微笑んでこう言った。
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