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部屋の中に入ると、オイルヒーターの暖かさがほわっと美月を包んだ。部屋には書斎机と低いテーブル、向かい合った場所に二人がゆったり座れるソファーが置いてある。窓にはブラインドがかけられ、合間から明るい外が垣間見える。ソファーへ遼佑に促されると、美月は手前に腰かけた。
「ミルクティーを入れたよ」
遼佑が美月の前のテーブルに、湯気が立ち上るカップを置いた。少し甘い香りが鼻をつく。
「いい香り」
美月がそう言うと遼佑は、美月が持っているタオルをさらっていくように持って行った。そして階段の手すりにそれをかけると
「今、瀬木に着替えを頼んであるから、帰りまでには用意するよ」
と言った。美月は申し訳なくて小声で謝った。そして洋服のお金を払うと言ったが、遼佑には聞こえていないようだった。
「まだ痛むかな?ソファーにどうぞ」
扉を閉めながら、遼佑はそう言った。美月は促されたソファーに座り、ミルクティーのカップを持ち上げながら、それに答える。
「いえ、すぐ冷やしたから、もう大丈夫です。ありがとうございました」
遼佑は安心したように微笑むと「良かった」と呟いた。そして
「それでね、今日は、少しわがままを言ってもいいかな?」
と続けた。わがままと言われて、美月は嬉しくなった。先日の失態も、そして今回もまたである。お金をいただくにはそれなりなことがしたかったのに。
「はい!喜んで」
美月がそう言うと遼佑が
「何かの業者さんみたいだね」
と言って笑った。美月はその笑顔がまた見たくて
「何でもご依頼ください」
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