第三章 カラー feminine modesty(乙女のしとやかさ)

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第三章 カラー feminine modesty(乙女のしとやかさ)

 桜が咲き誇り満開を迎えた頃、美月はまた水曜を迎えた。 待ち遠しいという、しばらく感じることのなかった感情を、美月は持て余していた。この感情を言葉にするならば、美月は『あこがれ』だと思った。思春期の時期、あこがれの先輩が今日はいるだろうか、話しかけてみようかなどと、誰しも学生の時に抱いたあの感情。そしてその、あこがれの人の役に立てる『今日という日』が、待ち遠しかったのだ。ウキウキと着替えて、待ち合わせの場所までを急ぐ。春の柔らかな風までが、ダンスしているように感じた。   「いらっしゃい」  先日同様に、勝手口のドアを開けるとすぐ遼佑が、満面の笑みで待っていてくれた。美月は驚いたが、遼佑も同じ気持ちでいてくれたのだろうと思うと嬉しかった。 「お邪魔します」  ぺこりとお辞儀して、美月は白いスニーカーを脱いだ。若草色のプリーツスカートがふわりと広がる。もし誰かに見られても、汚れるから着替えを持っていていると言えばいいと思った。それより、また遼佑がデッサンをするとしたら、少しでも可愛く見られたかったのだ。 「袖が可愛いね」     
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