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朝と夜、彼の顔を見るのが僕の日課だ。
出会った時みたいな笑顔を見れる日は、少なかったけれど。
僕は彼の顔が見れるだけで、嬉しかったんだ。
なのに。
最近は、彼の顔を見る日が少なくなっていた。
特に夜に見れないことが多い。
どうやら彼は、どこかで夕飯を済ませてきているみたい。
深夜遅くに、玄関のドアが開く音が聞こえて来た。
その音はいつもと違って、乱暴で慌ただしい。
初めて見た彼の笑顔を思い出すと、まるで別人みたいだ。
でも、僕は何もできない。
何もしてあげれなかったんだ。
その日は突然やってきた。変わらない日常、変わらない景色。
そう思っていたのは、どうやら僕だけだったみたい。
彼がいつものように冷蔵庫を開け、ビールを取り出す。でもその顔は、一瞬も笑顔になることはなく。
むしろ、彼の顔はいつ泣き出してもおかしくない程に歪んでいた。
それは偶然のこと。たまたま彼が、冷蔵庫を閉め忘れていたから気付けたこと。
少しの隙間から聞こえた音は、彼の苦しそうな泣き声だった。
でも、僕は何もできない。
だって僕に感情も、声を出す力も無いから。
いつからなのだろうか、彼が夜に泣き始めたのは。
僕が知らないだけで、彼はずっと毎晩泣いていたのだろうか。
考えても、僕に出来ることなんて一つしかない。
この冷蔵庫の中身を冷やし続けることだけ。
そう、僕は彼が笑顔で買ってくれた冷蔵庫なのだから。
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