第一章【稚拙な言葉を貴方に】

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その日から、モノクロに見えていた世界が急に色付いた気がした。 「あ、来た!!」 「えっと、こういう時は……お待たせって言えばいいのかな」 孤児院を何度も何度も抜け出し、彼女に会いに行った。 彼女は、会う度に知らなかった言葉を遊びを沢山、沢山、教えてくれた。 そうして、別れる時には決まっていつも、 「また明日!!」 と、向日葵の様な笑顔で手を振ってくれるのだ。 其の姿を見るたびに、心が浮き立つ様な感じがして、翌日彼女に聞くと、これが【嬉しい】という感情らしい。 人間に、また一歩近付いた気がした。 ___ そんな関係が、何年も続いた。 その時になると、俺は色々な事を知っていた。 虹というものも見たし、海というものにも入った。 やっと、人間になれた気がした。 「明日から、高校生二年生だね」 「そう、だね」 俺も彼女も、もう高校生になって、すっかり大人に近付いていた。 公園で会う約束は、今も破られていない。 そんな明くる日。 彼女は泣きながら、酷く取り乱した様子で公園にやって来ていた。 「ど、どうしたの!?」 そう聞きたかったが、彼女の見たことの無い様子にどうすれば分からず、聞くにも聞けなかった。 ただ、ただ、彼女の背中をさすることしか出来ない自分には苛立ちを覚える。 暫くすると、彼女は泣き腫らした顔を此方に向け、 「死にたい」と呟いた。 俺は、普通に驚いた。 彼女は何時も明るくて、向日葵の様だったから。 何でも、見知らぬ男にレイプされたらしい。 俺からすれば「それがどうした」と、なってしまうのだが、一般的な感性からすると、それは許されないことらしい。 「………相手は?」 その言葉を聞くと同時に、心にドロドロとした黒い感情が生まれる。腹立たしいような、憎々しいような、言いようのない感情。 その次の瞬間。 気が付けば、俺は彼女を抱き締めていた。 「…………え……?」 自分でも意味がわからなかった。 彼女自身も理解出来ていないのか、目を見開いている。 ああ、これは何。 知らない、俺はこんな感情知らない。 こんなの彼女も、孤児院の人でさえ、教えてくれなかった。 分からない。 分からない。 だけれど、自分が今すべき行動だけはしっかりと理解していた。 ___初めて、彼女を助けたいと思った。
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