第十三章 僕らの聖夜 三

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 雪を見て嬉しいと思ったのは子供だけで、先生は溜息をついていた。迎えは遅れがちになり、足立と瀬戸、三上の親は雪による渋滞に巻き込まれた。 「俺の母親は、子供を産んでいて、父親が迎えに来る予定だった。でも、中々、来なかった」  瀬戸の両親は、サンタクロースが少し早めにプレゼントをくれたよと、弟を見せてくれた。小さくて、しわくちゃで、微塵も可愛くなかったが、両親は喜んでいた。 「サンタクロースは子供をくれるみたいだ。そんな話しを三上としていたよね。すると、三上は、いらないから弟を殺してしまいたいと言った」  三上は粘土で作った弟に、何度もハサミを刺していた。  三上の母親も子供を産んでいて、実家に戻りがちになっていた。母親がいないと、父親はコンビニの弁当か、カップラーメンを用意してくれたが、三上はちっとも美味しくないと言った。クリスマスイブには、母親も帰ってくると思っていたら、雪が怖いので実家にいると言って、三上は取り残されていた。 「でも、三上はサンタクロースに赤ん坊を頂戴と言った」  瀬戸や足立にとっても、三上は不思議で怖い存在であった。秘密を共有していたので、互いに見張っていたのかもしれないが、足立は瀬戸を愛していた。 「三上は、学校では優等生で、頼れる親友の立場にいたけど、俺達は影の部分を知っていた。そして、影をばらせば、殺しに来ると知っていた」  スケッチブックに、赤ん坊を取り出して笑う、三上の顔があった。三上の手は、スケッチなので黒で塗りつぶされていて、真っ赤だったことが伺える。三上の顔にも血が飛び散っていて、赤ん坊は力いっぱい泣いていた。 「これが、本宮 慶伊さんの子供で、慶士君だよね……」 「そうですか……この時の赤ん坊は、生きているのですか。しかも、慶士君なのですか」  瀬戸の絵を見て惹かれたのは、同じ事件の関係者だったからかもしれない。 「……人は、血の中から生まれてくるのかって、怖くて、怖くて……」  瀬戸は赤の絵の具が怖かった。 「俺は、死んだら動かないし返事もしないし、起きないのが、怖くてさ」  恐怖の限界を超えてしまい、記憶は失われた。 「もう、大人だから理解できる。三上は、先生を殺した……」  雪が降っていると、足跡を探して恐怖する。クリスマスが近くなると、どうしょうもなく、不安な気持ちがやってくる。アトリエで抱き合った二人は、同じ心の傷を持っていた。
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