俺の場合は後者。内心は――。

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 一向に鳴りやまない音に眉を潜めつつ、俺はドアノブに手を掛けた。 「先生、開けますよー」 「――お待たせ!」  俺達の声が重なる。  扉を俺が引く。しかし、向こう側にいた先生も扉を押す。するとどうだ、力関係は引いた側の方が強いわけであり――。  普段凛とした先生からは想像もできない可愛らしい悲鳴が聞こえ、何かが俺にのしかかって来た。突然の出来事で対応が遅れた俺は、それに吊られるように後ろに倒れ込む。 「っててて……って!」 「おぉ、危なかっ……」  先生の息が鼻にかかる。視線が近い。体温を感じる。  確かに、こういう〝お約束展開〟って漫画とかドラマとかで目にするけどさ。実際体験する事ってまずないと思ってたんだよね。だけどさ、今まさにこの状況って――。 「お、お約束展開?」  上ずった俺の声が科学室に響き渡る。  倒れ込む俺、その上に四つん這いになった先生。普通だったらこれが逆なんだろうけど、まぁこういうときもあるよね。  あまりの出来事に逆に冷静に思考を巡らせる俺は、何となく固まってしまった先生に微笑みかけた。やべ、なんかこれ恥ずかしいな。沖田みたい。 「あ、うぅ……ぅ」  すると、急激に顔を紅潮(こうちょう)させた先生は目をぐるぐると回しながらゆっくり体勢を立て直していく。  因みに、だが、この渚先生という方は普段クールでカッコいいという評価を得ている先生であり、決してこのような姿を見せるお方ではない。もう一度言おう、無い。 「せ、せんせ? 大丈夫ですか?」  パタリと女の子座りで落ち着いた先生に声を掛けた。しかし、帰って来た反応は可愛らしい唸り声のみ。やだこの人、小動物みたい。  俺の中のオネエが顔を出した気がするが、それは今置いておいて。  この科学室は教室棟から離れた特別棟という別館に存在している為、多少騒いだところで誰も来ない。強いて言うなれば、同じく特別棟に教室を構えている音楽や美術の先生方がここに居れば様子を見に来るくらいだ。
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