俺の場合は後者。内心は――。

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「先生はさ――」 「駄目だぞ春一。二人の時は先生では無く……」  先生――(あきら)さんの人差し指が俺の唇に添えられる。  そうだった、昨日そんな約束をしたのを忘れてしまっていた。これは彼氏失格だな。 「コホン、では改めて――晶さんは、いつから俺の事が、その……好きだったの?」  なんか、いざ口に出すと恥ずかしさがあるな。  俺は少し頬に熱が集まるのを感じつつ、晶さんの瞳を覗き込んだ。因みに、先生が俺の事をどう思っているのかは、昨晩で確認済みだ。  すると晶さんはまたしても顔を赤らめ、身体をもじもじさせて口を開いた。 「そ、そんなの――分かるわけないだろ!」  ……ん? そうなのか? そんなもんだっけ?  不思議そうにする俺を見て、晶さんは頬を膨らませて続けた。 「もう、女性にこういうことを言わせるのは、あまり感心しないぞ。だが、よく考えてみて欲しい。春一も、わ、わた、私が……好きで! こここ、告白してきたのだろう!?」 「う、うん……」  食い気味に話す晶さんを可愛いなと思いつつ、返答を返す。また声が上ずったような……。 「な、ならわからないか? こう、いつの間にか目で追ってたり、会話の一つ一つが大切に思えたり……し、知らないうちに――って! 何を私に言わせているんだ!」  そう続けた晶さんは途中で熱を暴発させ、顔を茹蛸(ゆでだこ)のようにして俺の肩をぽかぽかと叩き出した。  この人、自分で言いだして自分で恥ずかしがって怒って……全然見てて飽きないな。  思わずクスリと笑みが零れてしまう。それにすぐさま反応した晶さんは、何事も無かったかのように体勢を戻すと背筋を伸ばし「私、淑女(しゅくじょ)ですから」と言いたげな表情で食事を再開させた。  またその変わり身の早さに笑いを抑えきれず、晶さんが暴走したのは彼女を弄るネタの一つになりそうだ。  こうして、僕と彼女の初めての〝密会〟は幕を閉じた。    ******  一日というものはあっという間に過ぎ去ってしまう。これが、楽しい一日だったなら尚の事。  今日の学校生活を振り返りつつ、俺は溜息を吐き出した。
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