プロローグ

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 彼女は日本人とは思えない程白い肌で太陽の光を反射させ、(まぶ)しそうに片目を(つぶ)って此方(こちら)に歩いてくる。その(たたず)まいは何処か色気があり、思わず喉が鳴ってしまう。 「ハハハッ、定刻通りだが? と言っても数秒の遅刻は、確かにあったな。だが、それは突然生徒に呼び出されて面を喰らっていたということで一つ、手を打ってくれないか?」  わざとらしく笑い声をあげた渚先生は、白衣のポケットに両手を突っ込むと、僕の隣へ並ぶようにして鉄柵に背を預けた。その姿は妙に様になっていて、これで煙草でも加えてくれればドラマのワンシーンにでもなりそうだ。  なんてことを考えつつ、出来るだけ声質を明るくし返答を返した。 「そういう事にしておきましょうか。仕方がないですし」 「寛大(かんだい)で助かるよ」  大人の微笑、とでも言えばいいのか? 先生が俺に見せた微笑みは、俺と歳の近い女の子が絶対に出せない色気が混じっていて、慌てて顔を反らしてしまう。  顔から火が出そうだ。  そんな感じで数分、互いに仕様もない話を繰り返し、少しの間が出来た。  先生とは授業以外で会う事が度々あった為、それほど気にならない時間ではある。だが、この状況が俺の緊張を煽り、会話が切れるとドギマギしてしまう。  ま、でもここら辺が頃合いだろう。  そう思った僕は、本心じゃないにせよ緊張するこのイベントを早々に終わらせる為、意を決して渚先生の対面に立つ。 「ん? どうしたんだ?」  先生はきょとんとした顔で僕を見つめる。  恐らく、会話を交わしている内に何故ここに来たのか忘れてしまったのだろう。彼女にそういう節があるのは、既に周知の事実だったりする。
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