プロローグ

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「あ、あの。俺先生を呼び出したじゃん? その……さ」 「あーだったな。すまん、すっかり忘れていたよ。で? その要件を今から話してくれるってわけだな」 「あ、ああ」 「ふーん。そんなに改まってなー」  腕を胸の下で組んだ先生。からかうようにジト目を俺に向ける彼女は、どこか楽しそうに俺の方へと擦り寄ってくる。  多分、これからいう事が大体分かってんだろうな……。  恥ずかしくもあり、しかし後に引けないこの状況。俺は一度深呼吸をし、真っ直ぐに先生を見つめて言葉を(つむ)いだ。 「渚先生、俺――先生が好きです! 付き合って下さい!」  勢いよく頭を下げ、前方へ差し出した右手。  結果は殆ど目に見えている。後に残るのは息苦しい辛い学園生活と、あいつ等からの大爆笑くらいだ。しかし、そもそもこの賭けを振ったのは俺。もう仕方がないとしか言いようがない。  失礼かもしれないが、今後の生き方について頭を悩ませていた俺は、不意に訪れた右手へしっとりとした感触に、思いがけず変な声を出してしまった。 「ひょ?」  あげた頭。その視線の先に佇むのは俺の右手を握った渚先生。  ……ん?  彼女は俺の目にしっかりと目線を合わせると、今迄に見たことの無い女の子な表情で一言。 「――私は、我が儘だぞ?」  その言葉を理解するのにどれだけ時間を要したのか、全く見当もつかないが、冷静になった時には先生が不安そうな表情で此方を見つめていた。という事は、そういう事なのだろう。  俺の予想、というか俺達の予想を遥かに上回ってしまった〝期末テストビリが先生に告白するゲーム〟。  俺は未だに握った手を放そうとしない渚先生を視界に入れ、これをどうやって皆に説明しようか、と頭を悩ませた。
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