鼻唄

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そして長い長い戦いが続いた。 激しい戦いは二人の肉体を大きく変化させていた。 おばちゃんには面影など全く残っていない。 それはまるで神話に語り継がれてきた大いなる存在。聖母ともマリアとも呼ばれるべき、その慈愛に満ち溢れた両手には赤子を抱いている。 その姿。正に神。 対する旦那は、面影こそ残ってはいるが、三面の顔を持ち、背中からは巨大な漆黒の翼が生えている。下半身は数十メートルはあるだろうか。蛇の形を成している。手は六本あり、それぞれ形状の異なる武器を携えている。 その姿。正に悪魔。 おばちゃんも旦那も既に体力は無く、戦いは最終局面を迎えようとしていた。 決めるしかない。 おばちゃんも旦那もそう考えていた。 皮肉な事にすれ違いを続けていた夫婦の想いは、最後に一致したのだ。 「くらえぃ!確定申告ーっ!!」 「なんの!扶養者控除ーっ!!」 「ばかめ!自営業のわしには効かんわーっ!」 「ちっ。この甲斐性なしがーっ!」 「なにぃ!誰のお陰でいままでーっ!」 長かった戦いが、今終わろうとしていた。 ぶくぶくぶく。 私が死んだ理由。 そんな妄想をしていたら、ついうとうとしてお風呂で寝てしまい溺れてしまったから。
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