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ようやく家に着き玄関のドアを叩くと、中からセツさんが出てきた。
セツさんは私の姿を見て、何故かとても驚いた。
「あらあら、こんなに雨に濡れちゃって。うちの傘を持っていかなかったのかい」
「はい。でも、途中で傘屋さんに出会って、素敵な番傘を買えてラッキーでした」
「何を言ってるんだい。あんた、全身ずぶ濡れだよ」
そう言われてみれば、途中から服が肌に張り付くようで歩きにくくなり、何となく寒気がしていた。
「おかしいな。傘を差して来たのに」
「傘って、それがかい?」
セツさんにそう言われ、私は傘を見上げた。
すると、さっきまでの綺麗な赤い番傘とは、まるで別物になっていた。
竹の骨に赤い葉っぱが張り付いているだけの、しかも雨の重さで穴だらけであった。
服もズボンも雨を吸って肌にへばりつき、手や腕も濡れて冷えきっていた。
頭と顔だけは何とか濡れずに済んだだけで、リュックも濡れてしまっていた。
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