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ピシャ、ピシャと、どこからか水溜りを歩く足音が聞こえてきた。
ぬかるんだ道の向こうから、農作業着姿で頭には笠を被り、何かを背負った人がこちらに向かって歩いて来た。
無人販売所の前で立ち止まり濡れた笠を少し上げると、この村では珍しく若い男性だった。
青年は籠を背負い、藁沓を履いていた。
「お姉さん、傘を持っていないんだろ。雨はしばらく止まないし、うちの傘をお買いよ」
青年はそう言うと、籠を地面に下した。
籠には蓋が被せてあって、それを開けると色とりどりの番傘が五本ほど入っていた。
「うちは代々続く傘屋でね。作っては、こうして売り歩いているんだ」
「素敵な傘ね。高そうだけど。一本おいくら?」
すると青年は、片手を開いて私に突き出した。
「えっ、5000円?」
青年は首を横に振った。
「500円」
「安ッ!」
つい口走った言葉に、青年は笑った。
「一本ください」
財布を開けるとそこにはちょうど500円玉があって、青年に差し出した。
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