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そっと、見上げる
「やっぱり雨降りましたね…」
「本当だな…やべ、俺、傘忘れたわ」
「わたし持ってきましたあ!」
「さすが」
「ふふふっ。入ってください」
声だけ聞けば、彼氏と彼女…あるいは夫婦に聞こえるかもしれない。でも違う、彼はわたしの20歳上の上司。会社から徒歩15分の取引先まで一緒に歩いて来ていた。来るときは晴天で暑かったのに、帰ろうとした途端、大降りの雨。朝、天気予報のお兄さんの言っていたことがばっちり当たった。
「俺、持つわ」
「ありがとうございますっ」
今度は声だけではなくて、きっと後ろから見ても完全に彼氏と彼女…あるいは夫婦。前から見たら…どうなんだろう。
わたしより15cm背の高い上司を、そっと、見上げる。決してイケメンだとは言わない。でも、なんか好きだなあなんて、思わず見つめる。
「さっきの取引先さ…」
上司は前を見て話す。20歳も年下に興味ないよね…なんて思いながら見続ける。わたしはきっと、上司が好き。だけど、20歳の差は大きい。恋人にはなれても、きっと、結婚は難しい。26歳のわたしにとって、結婚を考えない恋愛は難しい。そこで踏みとどまるということは、やっぱりそんなに好きじゃないのかもしれない…。
「どうした?」
一方通行だったはずの目線が、急にぶつかる。
「…課長ってイケメンだなあと思いまして」
冗談っぽく言ってみたけれど、どうしよう、顔は赤いかもしれない…。
「知ってる」
そうやってはにかんで笑う上司。そして2人で見つめ合って笑う。やっぱり好き。
ああ、こんな時間が続けばいいのに…。
会社まで、あと十数メートル。
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