16人が本棚に入れています
本棚に追加
「……浮いて、る」
「足がずっと地面と触れてんのもけっこうキツいんだよ。こうするのが普通だから」
「見た目は普通の高校生なのにね……」
改めて、目の前の暁を見る。
制服を見つめるひかるに気付いた暁は、不機嫌そうに唇を尖らせた。
「この格好がいいって言われたんでね。この世界じゃ一番警戒されないからって」
「誰に言われたの?」
「……エライ人」
「漠然すぎてわかんないけど、とりあえず暁くんよりは偉い立場の人がいるのね。暁くんの世界には」
「そう解釈してもらって構わない」
言いながら、今度は宙に浮いたまま寝そべってみせる。
「ちょっ、だめだめ、まだカーテン閉めてないんだから」
ひかるは慌てて袖をひっぱり無理やり床へと引き戻した。
万が一にも誰かに見られたら面倒な事程度の問題じゃ済まない。
強制的に床に転がされた暁は「いってぇ」とつぶやくと、そのままごろんとうつ伏せになった。
横で膝をついているひかるを、両手で頬杖をして見上げる。
予想より近い距離に戸惑いながらも暁を見つめ返すと、茶色に澄んだ瞳が上目遣いのまま微かに笑った。
普段の暁はむっつりとして口数も少ない。
笑顔らしい笑顔を見たのは、今が初めてかもしれない。
「俺はさ、ひかるの事なら何でも知ってるよ」
「……その言い方はだいぶ怖いですけど」
「本当の事だから」
「……何のために暁くんはここに来たの?」
「近くで見守るため」
「……なんで?」
「っていうのはちょっと違う。売り言葉に買い言葉ってやつだ。それで、ここに来る羽目になった」
「えーと……」
具体的なようで何も中身が掴めない。
今の暁の言葉だと、暁が誰かと喧嘩をして、その結果がこれ。ということになるのだが……
「それで合ってる」
「だから読まないでって約束したでしょ。……誰と喧嘩したの?」
「今は言えない」
「喧嘩の原因は?」
んー、と鼻息なのか声なのか微妙な音を出してから、暁は答えた。
「究極に言うと、ひかる」
「えっなんで、」
「今はここまでしか言えない」
話は終了、といったようにふいと目を背けると仰向けになった暁は、七分になっていた長袖の裾をさらに折り曲げる。
真田と同じく、半袖に変えないその袖を。
最初のコメントを投稿しよう!