第三章:硝子の向こう側

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「暁くん、浮いてる浮いてる!」  寝床になっているソファから起き上がった暁を見て、ひかるは大声を上げた。  暁は欠伸をしながら自身へを視線を向けると、そこで初めて気付いたかのようにのんびりと答えた。 「……あー…めんどいんだよ、歩くの」  寝癖だらけの髪をボリボリと掻きながら、また欠伸をする。  宙を浮いた状態で胡坐をかき、そのまま移動しているのだ。 「ちゃんと歩いてよ」 「……あんたしか見てないんだからいいじゃんか……」 「ここで気を緩むのに慣れて、もし外でやらかしちゃったらどうするの?いいから、歩いて」 「それは絶対にないから大丈夫……」  まだ眠いらしくうつらうつらと頭が定まらないまま、暁は食卓に座る。 「……いただきます…」  ぼうっとしたまま箸を手に持ち、卵焼きへと伸ばす。  何かしら落としやしないか、というかそもそも椅子から転げ落ちるのではないだろうかと、見ているだけでハラハラする。  というよりも、その『絶対にない』という自信はいったいどこからくるのだろう。  暁ほどではないが、ひかるにだってオンとオフくらいはある。  しかしそれでも、ついうっかりというものがあるのが人間だ。オフ時の癖がオン時に出てしまうことだってある。  暁のあの自信は何故なんだろう。  ああ、人間じゃないから? 「……ごちゃごちゃ考えてないで早く食えよ」 「ちょ、また読んだ!読むなって散々言ったでしょ!!」 「……寝起きにそんな配慮できねーよ」 「寝起きじゃなくたって最近読みすぎだから」 「いいから食えって。けっこう美味いよ」 「……作ったの私なんですけど」  むすっと答えるひかるをちらりと見て、唇の端だけ微かにあげて笑う。  昨夜正体を明かしたせいか、暁はどうやら完全に気が緩んでいるようだ。  口数も以前よりずっと増えていると思うし、元々ひかるに対して緊張感を持っているようには見えなかったもののそれまで以上に寛いでいる様子が伺える。  むしろもう少し気を使ってほしいとすら思うくらいに。  相変わらずぼうっとしたままモソモソと口へ食べ物を運ぶ暁を見つめながら、ひかるはふと思い出した。
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