第三章:硝子の向こう側

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 相変わらずぼうっとしたままモソモソと口へ食べ物を運ぶ暁を見つめながら、ひかるはふと思い出した。  1か月近く前、この部屋の前に膝を抱えて全身雨に濡れそぼっていた暁。  今思えば、鍵がなくとも中に入る術はあったはずだ。  それでもひかるを待っていた。  ひかるが声をかけた時には、『咲田ひかるさん?』と、確認までしている。  あれは暁なりにひかるを気遣っての事だったのかもしれない。  ―――鍵を開けて帰宅した部屋の中に、見知らぬ少年が居る。  それではさすがに警戒心を持たれると思ったのだろうか。  ……目の前にいる暁はそんな気を使うようにも思えない。  悪く言えば、ひかるに怪しまれないよう最低限の注意を払ってひかる自身が部屋に招くよう仕向けたとも言える。 「まぁそんなとこだな」  最後の卵焼きを放り込んだ暁は、微妙にもぐもぐとしながら答えた。  ……答えた?  ひかるは暁を睨みつける。 「読むなって言ってんでしょ」 「大きな声で考えすぎなんだよ。こっちからしたらむしろうるさいくらい」 「……もう帰んなさいよ、上に」 「今はまだ無理なんだよ」 「なんで」 「見届けるまでは帰ってくんなって言われてるから」 「誰に、何を見届けるまで?」 「今は言えない」 「はいはい、またそれね……」  ひかるも続いて最後のひと口を放り込むと、席を立った。
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