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序章
私の記憶は、幼き日の──雲一つ無い空からの光が、木々の若葉を通り抜け、一筋の線となってそそがれる──晴れた日の春から始まる。
「それでは先生、レイラを……娘をお願いします」
私の小さな左手を隠すようにつながれたその手を離し、父──であった人──は頭を下げ去っていった。
「レイラちゃん。今日からよろしくね」
私の目を見るために、体を折り畳んだ彼の言葉を聞く。遠くはなれ、小さくなっていく影を見ながら、その返事を返すことはなかった。
「さあ、家に入ろう」
と、妙に大きい扉を開き──宙にあった右手を引かれて──部屋の中へと連れていかれた。
その家の中は……荒れていて、長い間なにもされていないのか、厚く積もったホコリがわずかな刺激で舞い上がり、日に照らされ存在感を増したそれらは、再び元の場所へと戻っていく。
彼は、それがいつもの、何一つ変わらない日常の一部であるかのように気にも止めず、部屋の奥へと進んで行く。
彼が歩み、その時を刻んでいくのに対して、私の時は刻むことはなかった。
「ねぇ、どうしたの」
と、彼は聞いた。初めて会ったときから、一言もしゃべらずにうつむいている私に対して。
「……アタシは」
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