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風に揺らされる、木々の若葉のこすれる音に、春の訪れを祝うはずの音に消されてしまいそうな儚げな声。深い悲しみを乗り越える事のできない、小さな音が響く。
「アタシは……いらない子なんです」
この小さな体は、前を見ることをできずに、震えていた。
「どうしてだい?」
「まえ、聞こえたんです。お母さんが『あの子さえいなければ』って……言っていたのが」
月すらも隠れていたあの暗い夜の日に聞いてしまった言葉、それが深く心に刺さり残っていた。
「アタシは……きっと、わるい子……だったんです。だから、お母さんも……お父さんも……アタシのこと、いらないって……」
「そんなことないよ」
止まることを知らない涙を払い、その大きな手のひらが顔をつつむ。
「君の左手にある印なんだけど、それは『魔法使い』に現れる印なんだ。君が住んでいた国ではまだ理解者が少ないからね。君のお母さんとお父さんは君が苦しまないように僕の所につれて来たんだよ」
じっと、左手を見つめた。涙でにじむ手の甲に、その印は刻まれている。
「君がここに来たのは、君自身のためなんだ」
「アタシのため?」
「うん、そうだよ。だからいつか、きっと迎えが来るからね。それまで我慢できる?」
「わかった。我慢する」
「それじゃ、僕の事なんだけど……」
「先生」
「ん?」
「お父さんが言ってた。先生って」
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