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あの日、先生は何を思っていたのかは今になってはもうわからない。先生は何に怒り、悲しんだのかを知ることはできない。
あの日、あの時をもって街から明るさが消えた。この国が戦争を起こしたと知った。争いの理由はわからないし、知ろうともしない。判ったところでこの現実が変わる訳ではないのだから。
私が独りになったのは、あれからすぐ後のこと。国と国とのくだらない喧嘩のために先生は連れていかれた。どちらが勝とうとも私たちには関係のないことであるのに、引き裂かれた。
「先生。私……私も行きますか。ですから……」
連れていかれる先生の後ろから声を投げた。小さなころからともに過ごした家族を失うのよりも、この不条理な世界に身を置き、先生とともに過ごせた方がましだから。
「待ってください、先生……まって……」
届かない手を必死に伸ばし、空をつかむ。まっすぐ見つめていた先生の姿は、次第に小さくなり、消えていく。
「そんな……どうして……どう……して」
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