10人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねぇ、相談があるの」
彼女は僕に言う。相談……それはきっといつものことだろう。彼女の好きな人に関してのこと。僕は彼女と『彼』の共通の友人のため相談に乗っている。
「いいよ、どうしたの?」
僕は答える。いつものように。
彼女はありがとう、と答えてから話し出した。簡潔に言うと話の内容は、『彼』に告白しようと思っているということだった。
それは僕にとっては聞きたくない話だったのだけど……彼女に分からないよう僕は繕う。笑顔で答えるんだ。彼女の恋を応援したいから。
――僕の好きな人の恋が実るように。
僕が彼女のことを意識するようになったのは高校に入学してからすぐの、初めて声をかけてくれた時だ。僕はその時、先生に頼まれていたものを運ぶために1人で整理していた。もちろんめんどくさいことを自ら手伝ってくれる人なんているとも思っていなかったし、1人でも出来ることだったから問題はなかった。
だけど周りが見て見ぬふりをする中、彼女は平然と声をかけてきたんだ。
「私も手伝うよ、1人じゃ大変でしょ?」
「……えっ、いいよ申し訳ないし」
「いいのいいの」
茶色い髪の大きく澄んだ瞳を持つ子だと思った。それと同時に明るくて優しい人だとも。。まだその時はこんなにも好きになるだなんて考えても見なかった。
だって僕は生まれてから1度も人を好きになったことがなかったから。だから……僕にとっては彼女が初恋の人で。なのに彼女には好きな人がいた。それを打ち明けてくれたのは僕と彼女の仲が進展したことを表すと同時に僕の恋が叶わない可能性が高いことを示唆するものだった。
「ねぇ、なんだかぼーっとしてるけど大丈夫?」
彼女が僕の顔を覗き込む。どうやら話を聞いているはずが感傷に浸ってしまったようだ。せっかく彼女といられる時間なのにもったいないことをしてしまった。……いや、これ以上彼女が楽しそうに話す『彼』のことを聞きたくなかっただけかもしれない。現実逃避、というやつだろうか。
それはともかく彼女に返答しなければ。このまま何も答えないと心配されてしまう。
「あぁ……大丈夫だよ、心配しないで」
「そっか。それなら良かった」
そう言って彼女は笑った。やっぱり笑ってる顔が1番可愛い。そう思いつつも、少しだけ胸がチクッと痛んだ。
最初のコメントを投稿しよう!