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「おいおい……オレを別れ話のダシに使うなよ」
「だって、絶妙のタイミングで現れてくれるんだもん。使わない手はないでしょ?」
「あんな別れ方して……本当に良かったのか?」
「いいのいいの。ちょっと優しくしてやったらつけあがっちゃってさ、人のこと束縛しようとするんだもん。ウザイから早く切りたかったの」
「……割り込むんじゃなかったな」
「でも助かったよ。先生、ありがと」
そう言って微笑む柔らかな表情は、ついさっきまでの豪快な悪女っぷりを忘れさせる。
しのぶは何気なく、手に持っていたタバコをまた口にくわえた。そしてふと、五嶋と目が合う。
「あ」
ヤバイ──と彼女が思ったのかどうかはわからないが、バツ悪そうに歪めた顔を笑って、五嶋は携帯灰皿を差し出した。
「お前、確か二十歳過ぎてたよな?」
「うん……まあ」
「なら後はしまっとけ。オレは時間外に仕事はしない主義なんだよ」
しのぶはタバコの火を消しながら、五嶋をいぶかしむように見つめている。
が、すぐに気を取り直すと、五嶋の姿を上から下まで眺めた。
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