10月  その1

10/21
前へ
/93ページ
次へ
「おいおい……オレを別れ話のダシに使うなよ」 「だって、絶妙のタイミングで現れてくれるんだもん。使わない手はないでしょ?」 「あんな別れ方して……本当に良かったのか?」 「いいのいいの。ちょっと優しくしてやったらつけあがっちゃってさ、人のこと束縛しようとするんだもん。ウザイから早く切りたかったの」 「……割り込むんじゃなかったな」 「でも助かったよ。先生、ありがと」  そう言って微笑む柔らかな表情は、ついさっきまでの豪快な悪女っぷりを忘れさせる。  しのぶは何気なく、手に持っていたタバコをまた口にくわえた。そしてふと、五嶋と目が合う。 「あ」  ヤバイ──と彼女が思ったのかどうかはわからないが、バツ悪そうに歪めた顔を笑って、五嶋は携帯灰皿を差し出した。 「お前、確か二十歳過ぎてたよな?」 「うん……まあ」 「なら後はしまっとけ。オレは時間外に仕事はしない主義なんだよ」  しのぶはタバコの火を消しながら、五嶋をいぶかしむように見つめている。  が、すぐに気を取り直すと、五嶋の姿を上から下まで眺めた。
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加