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春賀が悲鳴に近い叫び声を上げていた。驚くのも無理はない。まさか自分としのぶが、そんな関係になっていたとは、勘のいい諏訪ならともかく、春賀にしてみれば天地がひっくり返るほどの衝撃だったに違いない。
「ちがうわよ! だから先生には関係ないって言ってるでしょ!」
しのぶは物凄い剣幕で立ち上がったが、それでも五嶋とは目が合わせられないらしい。そこが彼女の正直なところだ。
手を振り解き、教室を出て行こうとするその背中に、五嶋は皮肉をぶつけた。
「じゃ、別の男の子どもなんだな。みんな別れたって言ってたけど、オレ以外の男とも寝ていたってワケだ。やっぱお前尻軽だなぁ」
しのぶが足を止めた。うつむき、握り締めた拳が震えている。
五嶋を振り返ったその顔は、怒りと、悲しみと、そしてほんの少しの優しさが混ざった複雑な表情だった。
「ちがう……先生、私……」
「じゃ、オレの子どもだって認めるんだな?」
しのぶは小さく頷いた。
今にも泣き出しそうな顔──と思ったのも束の間、すぐにそれはあざけり笑う表情に変わった。
向こうで厳しい顔をしている諏訪と、引きつった顔で今にも倒れそうな春賀、そしてしのぶ。三人三様の表情だ。
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