1月、そして2月

21/21
69人が本棚に入れています
本棚に追加
/93ページ
「お前もホント、見かけによらず小心者だよ。大胆なことやってのける割に、肝心のところで本音正直に言わないんだからな。ま、そこがお前らしいといえばお前らしいんだが」 「な、何よ……そんな言い方しなくたって──」  それ以上の言葉を消すように、五嶋はキスでしのぶの唇を塞いだ。  後ろにいる諏訪と春賀の驚く顔が目に浮かぶようだ。 「……これでわかっただろ?」  唇を離して言うと、しのぶはまだ呆気にとられていたが、心得たように意味ありげに笑うと、美しい唇を歪めて嫌味を放った。 「……さあね。先生だって、まだ本音言ってないでしょ」  全く──これだからしのぶはおもしろい。 「わからん奴だな……」  五嶋は悪態をつきながらも、しのぶをしっかりと見つめた。涙に濡れる瞳の、その奥にいる自分を叱咤するように。 「お前が好きだ。だから、もう……」  突然──五嶋は床に膝をついた。跪き、しのぶの身体にしがみついていた。 「もう……何処にも行かないでくれ」  それしか言えなかった。それ以上は言葉にならなかった。  しのぶを、この温もりを、そして授かった小さな命を──絶対に離さない。離したくない。ただただ愛しくて、抱きしめた腕に力を込めた。  外は深々と降る雪──冷え込む冬はまだ終わりそうにない。  けれど、見上げたしのぶの顔に満ちる微笑は、優しく自分の頬を包む手のひらは、満開の桜の隙間にこぼれる春の陽のような暖かさだった。
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!