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俺が存在してはいけなかった……
苦しい……彼の傍にいられないのが苦しい。傍にいても苦しい。これが人を好きになるってことなのか? 俺が苦しいだけならいい。彼まで苦しめることになるなら……
彼がいたから俺が存在出来たんだ。人は近くにいるだけで暖かいものだと知り、恋することも知った。ありがとうと告げてさよならを言おう……彼に会ったら……
次は曇りだった。朝から変な天候で今日こそ彼に会えるだろうかと、学校に向かう電車の中で考えていた。彼とはあれ以来、会えていない。
「はぁ……」
通学路で彼を発見した俺は、近くまで走って腕を掴んだ。
「……やっと会えた」
「先生…?!」
「……こっち来て」
誰も来ない校舎裏まで走った。彼は黙っていたけど、不安そうな顔をしていた。
もう不安な顔をさせないから……
「君はまだ俺を好きか?」
「……何言ってんの?」
「好きか?」
「……好きだよ」
「そっか……ありがとう。それだけで俺は一生生きていけるよ。楽しかった……人としての生活」
「え? 何が……?」
俺は彼にそっと口づけをした。頬に触れた手を彼が握った。
「これがキスって言うんだね。ありがとう助けてくれて、そしてこれでさよならだ。大好きだよ……いつまでも……」
俺の体から大量の花弁が舞う。花の魔法が解ける。俺の死んだ理由はしてはいけない恋をしたから……
「先…生…あれ?」
彼の差し出した手に、二ツ星のてんとう虫が羽根を広げ飛びたった。
【END】
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