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「先生、紫陽花に感情なんてあるわけないのに」
「そうでもないよ。植物だって昆虫だって言葉がないだけで感情はあるんだよ」
「先生が言うとなんだか説得力あるね」
「……そ…そっか?」
「先生には聞こえてるの? 紫陽花の声……」
そうだよ……聞こえてるよ……
「……そんなの例えばの話しだ」
「本当に聞こえてないの?」
「聞こえるわけないだろ」
そんなに近付いて大丈夫なのかい?って……
「こら! 自分の傘を差しなさい。濡れて風邪を引いてしまう」
「いいの! 先生とこうして歩きたい」
「あ…あのね、先生は君の傘差し係じゃないんだぞ」
湿って暑い二人の間の空気も、鮮明に聞こえる雨音も、何もかも感じないように震える手を握り締めてひたすら隠した。
「先生、手震えてる……寒いの?」
彼が俺の手に触れた。その瞬間、焼けるような熱を感じてその手を振り払ってしまった。
「……ご…ごめん」
俺は、傘を彼に押し付けると全力で走った。まだ残る手の熱を握り締めて走って走って……気付いた時には自宅に辿り着いていた。
俺はびしょ濡れの服を着替えると、気持ちを落ち着かせる為、冷蔵庫の残り物で食事を作った。そして何も考えないで食べた。食器を洗う時、手がヒリヒリ痛み彼に触れられたのを思い出した。なぜか悲しくて涙が溢れて止まらなかった。
俺は一晩中、泣いて泣き疲れて眠った。
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