発端

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「おい、何だよ。何なんだよ、その袋の中身は」 遠藤ヤマトに急かされながら、北園エイコが袋の中身を左手の上に取り出した。 ビニールパッケージされた白い粉末状の物体。 それはエイコの手のひらより遥かに大きく、一キロぐらいはありそうに思えた。 「めっちゃ重い。あっ、片栗粉」 北園エイコの間の抜けた言葉を無視して、遠藤ヤマトは叫んだ。 「んなわけねえだろ。覚醒剤とかヤクとか、そんなんだろ。マジでヤバイぞこれ」 「なあ、どうしよう。警察に届けるか」 どきまぎする朝田ハルキの言葉を遠藤ヤマトが遮った。 「馬鹿。こんな大量の覚醒剤持って警察なんか行ってみろ。事情聴取やら何やらで、もう家には当分帰れねえぞ。下手すりゃ麻薬の売人に仕立てあげられて、冤罪で刑務所の中だぜ」 警察にとって最も重要なのは、大量の麻薬を押収して違法薬物の流通を阻止したという実績だ。しかし、だからと言って犯人が捕まらなくて良いという理由にはならず、誰かがその罪を被らなければならないのだった。 今、エイコの手にある覚醒剤の存在が公になった場合、誰かが務めなければならない犯人の役として最も適しているのは、一キログラムもの大量の覚醒剤を手にアホ面下げて警察に現れた若者三人組だ。警察にしてみれば、まさに鴨葱なはずだ。
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