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ヤクザ達はギョッとしたふうに身体を固くした。が、それも一瞬だった。検査キット状の器材で白い粉の中身を手早く確認し終えると、ヤクザ達はたちまち福禄寿のような顔となった。
「おお、これこれ。姉ちゃんありがとな。ところであのモジャモジャ野郎、何か言ってたか」
「それ預かっててくれたら百万円あげるって」
馬鹿。よせ。もう頼むから、北園エイコは今すぐ口が聞けない金縛り状態にでもなってくれ。
朝田ハルキは全身の血の気が引くのを身体で感じた。
横目に遠藤ヤマトを見た。
固まっていた。
まるで蝋人形。博物館の蝋人形のように、ヤマトは完全に硬直している。
「そうかあ。なるほどなあ。じゃあ俺達にこれ渡したら、姉ちゃん達は百万円を貰い損ねちまうわな」
年長のヤクザは、白い粉のパッケージを舎弟だか子分だか手下のような強面の男に手渡した。それから、懐から長くて厚い革財布を取り出した。それを北園エイコに惜し気もなく丸ごと手渡して、ヤクザは言ったのだ。
「これは、俺達からのお礼だよ。中に百万円ぐらいなら入ってるから」
北園エイコは、やはり蝋人形のように固まってしまい、もう口がきけなくなっている。しかし、今さら事態の恐ろしさに気づいた所で遅い。完全に手遅れだった。
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