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「兄ちゃん達も何か困ったことがあったら、いつでも俺の所に連絡しな」
そう言ってから、年長のヤクザは三人に一枚ずつ名刺を配った。受け取った名刺には、迫力のある字体で、わけの分からない長々とした肩書きが書いてあった。三人全員に平等に名刺を配り終えると、上機嫌のままヤクザ達は去った。
暫くは三人とも誰ひとりとして動けず、そして何も言えなかった。しかし、最初に言葉を発したのは遠藤ヤマトだった。
「おい、あのモジャモジャ頭の中国人が帰ってくる前にここから消えようぜ。あいつ、絶対に戻ってくるぞ」
あの男が戻って来て、さあ預けたブツを返してくださいと言われたらどうする。「ヤクザに渡しちゃいました」では済まされないはずだ。絶対だ。絶対に済まされない。それは小学生ぐらいの子供でも理解出来るような、極めて単純な方程式だ。
弁償します。なんていうような在り来たりな謝罪が通用するわけも無かった。
さっきのヤクザから貰った百万円入りの財布。そんな、はした金なんかで足りる訳もなかった。五百万円か、五千万円か、あるいはもっとか。
一キログラムもの大量の覚醒剤の末端価格がいくらなのか想像もつかないのだが、あれがたったの百万円ぽっちじゃないのは、火を見るより明らかだった。そうじゃなければ、世の中で最も損得勘定に敏感な人種であるヤクザが、百万円を財布ごとポンとくれるわけもない。
ヤクザ。意地と欲得の狭間に生きる独特かつ特殊な人。
彼らにとって数千万円から億単位の利益をもたらす財宝を取り戻す為だったら、百万円ぐらい痛くも痒くもないに違いなかった。
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