発端

11/14
前へ
/280ページ
次へ
どこをどう走ったのか、まるで分からない。転げるようにして二十分ほど走り、深夜営業の大型リサイクルショップの広大な駐車場に駆け込んだ。駐車場の監視カメラから死角になる一角で、三人はヤクザから受け取った財布の中身を確かめたのだった。 駐車場の灯りの下で、紙幣を一枚ずつ数えてみた。 百万円分の真新しい紙幣一束と、使い古しのバラの紙幣二十八万円分が入っていた。 「ねえ。これ、どうしよう。もしかして私、人生最大級の超ミスしちゃったのかな」 あはは、と虚ろな笑いをするエイコの目が游いでいる。 「ああそうだよ、エイコ。お前は本当に信じらんねえぐらいのメガトン級の馬鹿だな。お前は脳に行くはずの栄養全部が下半身に行っちまったんじゃねえのか」 遠藤ヤマトの殺気だった言葉に、北園エイコが泣きべそをかいたのを目の前にしても、朝田ハルキはもう何も言いたくなかった。 「どうすんだよ。俺達、三人あわせてたった百二十八万円で命を売っちまったんだぞ」 遠藤ヤマトの声が震えた。 泣いている。 それを見て、朝田ハルキはようやく言葉を発した。 「俺達、もう死人なのか」 「そうだよ。ありゃあきっと中国人マフィアだよ。ヤクザと麻薬がらみの取り引きで揉めるか何かしたんだろ。それにエイコの馬鹿が首を突っ込んだんだよ。知らんふりしてあのヤクザ達をやり過ごしてりゃそれで良かったんだ。そうしてさえいれば、あのモジャモジャ頭の中国人に麻薬を返してそれで話は終わりだったんだよ。中国人も百万円あげるとか言ってたけど、そんな気味の悪い謝礼は適当に誤魔化して辞退してりゃ、それで話は全部お仕舞いだった。それをエイコの馬鹿のせいで」 ヤマトが、頭をかきむしった。そして、声にならないような声で絶叫した。 「畜生」 遠藤ヤマトは続けた。 「俺達はもう死んでるんだ。死人同士だよ。絶対に殺されるぞ。っていうか、そもそも、あのモジャモジャから麻薬なんか預かるなよ。馬鹿なのかお前。エイコ、元々は全部お前のせいだぞ。くたばりやがれ。馬鹿女」 北園エイコが地べたに直接座り込んた。二十代半ばの女とも思えないぐらいに、恥も外聞もなく、北園エイコは泣いた。 「だって、無理矢理だったんだもん。中身が麻薬だなんて分かんないよ。私ばっかり責めないでよ、ヤマトの馬鹿」 朝田ハルキも一緒に泣きたい気分だった。泣いてすべてが丸く収まってくれるなら、何時間でも泣いていたかった。
/280ページ

最初のコメントを投稿しよう!

126人が本棚に入れています
本棚に追加