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《ワーズラーム様、見てください。今年もほら、エリカがこんなに》
満開の花束を抱いて、彼女が駆けてくる。
紅潮した頬。頭には何故か欅の葉が乗っている。
どうやら、今日も無茶な冒険をしてきたようだ。
ぐぐ、と顔を寄せて、そっと葉を散らす。
《おかえり、ソフィア。エリカの良い匂いがするな。ついでに、欅の爽やかな匂いもするぞ》
《あ、あはは…そ、そうだ!このお花で飾ってあげますね。尻尾を貸してくださいまし》
《お転婆はほどほどにな。花が足りるかな》
先の方ならまだしも、彼女が飾りつけようとしている根本の方になるとその太さは彼女二人分の腕でも抱えきれないほど太くなる。
そんな心配を、彼女はふふんと笑う。
《足りなかったら、他の花で接げばいいんです。知っていますか?サクラソウも蓮華も、もう綺麗に咲いているんですよ》
《もうそんな時期だったか》
花畑の真ん中で幸福そうに笑う彼女を想像して、胸が暖かくなるのを感じる。
《そうだ、ソールとカーラにも手伝ってもらいましょう!せっかく器用なのにおかしな悪戯ばかりするんですもの。たまには良いことをしてもらわなくっちゃ》
《あのじゃじゃ馬共がそんなに簡単にやってくれるか?》
鳥魔の少女と小鬼の少年が他の魔族に追われながら騒がしく廊下を駆けていたのを思いだし、笑みを浮かべる。
それに対し、彼女はいつだって謎の自信をみなぎらせ、こう言うのだ。
《秘策があるんです。大丈夫!》
風が吹く。
瞬きの間に花は枯れ、魔族の血で練り上げた人族の兵器が、魔族の土地を蹂躙していく。
「だから、早く逃げてくださいまし」
目の前で閉じられた洞窟の岩戸。
どんな魔法でもってしても、どんな道具でもったとしても、開くことは叶わない。
「ソフィア!ソフィア!!」
無駄と知りつつ吐く炎も、打撃も、すべて吸収されていく。
やめてくれ。
開けてくれ。
頼む。
奪わないでくれ。
ああ、ソール。
カーラ。
エンリケ。
ゴーラム。
ソフィア。
なぜお前達が死ななければならないのだ。
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