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ふと目を覚ますと、辺りはもう暗くなっていた。
ぞわりと背筋を撫でる恐怖。
恐ろしい。闇は、恐ろしい。
闇は、絶望を背負ってやってくる。
ぎゃあ、とユーカラは叫んだ。
止めてくれ。
帰ってくれ。返してくれ。頼む。春に。あの日に。
ソフィア。
ゴーラム。
エンリケ。
ソール。
カーラ。
返してくれ。
あの春の日々を。
己れの幸福を、返してくれ。
「おお?おうおう、どうしたユーカラ。何が怖いんだ?大丈夫だよ、怖いものはみんなお父さんがこらしめてやる。よーしよしよし。だーいじょうぶ、大丈夫だよユーカラ」
ユーカラの悲鳴に目覚めた父親がユーカラを抱え、軽く揺すりながらあやす。
「大丈夫、大丈夫。愛しているよ、ユーカラ。私達の可愛い子」
父が歌うのは、調子の外れた子守唄。
人間というのは、歌の上手いものだと思っていた。
ーーお前にキスをするのは金の光。朝にお前を起こしてくれる、優しい光。
お前が安らかに眠れるようにこの子守唄を歌おう。
おやすみ、私の愛しい子。
おやすみ、私の愛しい子。ーー
ユーカラの父と母は、ユーカラに愛を与え続けた。
乳を含むこともできず、いつだって不機嫌で、夜泣きも酷いユーカラはお世辞にも育てやすい良い子ではなかったはずだ。
この父と母でなければ、ユーカラはユーカラの望む通り間引かれていたことだろう。
しかし、そうはならなかった。
ユーカラは、本人の願いとは裏腹に健やかに成長してしまった。
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