勝っても負けても

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 勝負の時が来た。  ピストルが鳴る。  第一走者は達哉だ。陸上部はハードルだが、長い足で、ただ普通に走っているように、ハードルを越えていく。  サッカー部はドリブル、バレーボール部はボール三個持ちだ。野球部はキャッチボールをしながら走っている。  コーラス部はハンデなしだ。達哉は必死で走った。  「たっちゃーん、がんばれー!」  さっちゃんの応援する声が聞こえた。  負ける訳にはいかない。達哉は何とか一位でバトンを渡した。  二位は陸上部だ。  第二走者は陸上部は砲丸を抱えて走るので、ぐっとスピードが落ちる。  しかし第二、第三走者で半周以上の差がつかなければ、アンカーで多分あっさり抜かれてしまうだろう。気は緩められない。  去年は第一走者で、すでに断トツのビリだったコーラス部は、なんとか一位を守っていた。 運動部との掛け持ち組が、ハンデなしに走っているのだから当たり前といえば当たり前だ。  反対に陸上部は最下位にまで順位を落としていた。  そしてアンカーの二宮先輩にバトンが渡る。  あっさりと女子サッカー部のさっちゃんに抜かれる。さっちゃんは高校選抜にも入っている位なので、足も速いしドリブルも上手い。  陸上部の部長は百メートルが専門の短距離走者だ。バトンを受け取ると、あっという間にバレー部も野球部も卓球部も抜き去った。  二宮先輩は男子サッカー部に抜かれ、ハンドボール部に抜かれ美術部に抜かれた。  残り10メートル。7メートル。5メートル。  陸上部がすぐ後ろに迫っている。    ゴール!  ハナ差、というのだろうか。ほとんど同時のゴールだった。とはいえ勝敗は明らかだ。  グランドが歓声に包まれた。息があがって動けずにいる二宮先輩のところに、達哉は走りよった。  「やりましたね! アイツらを見返してやりましたよ!」  達哉は膝に手をついて、荒い息をしている二宮先輩の背中に抱きつく。  「おおー」  先輩は達哉を見上げて、目を見開いた。達哉の後ろからコーラス部のみんなが突進してくるのが見えたからだ。  その中には、二宮先輩の好きな三木さんも、達哉の好きなさっちゃんもいた。
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