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もう帰らなければならない。
そう聞いた私は、思った以上にショックを受けていた。
だって、帰ったらもう二度とサヴィに会えない。
ーーでも、帰らないという選択肢は選べない。
「そっか・・・・・・もう、時間なんだね」
「・・・・・・ああ」
私達はうつむきながら残りのスープを食べて、立ち上がった。
「私はどうしたらいいのかな。何かする事ある?」
「いや、もう帰還の条件は満たしている。後は術者がーー俺が、承認するだけだ」
サヴィはそう言うと背を向けて部屋を出ていった。
一人残された私は、戸惑いながら、とりあえず皿を片付けた。
洗剤替わりらしい粉をかけ、スポンジのような物で洗う。
水桶から水を汲んですすいだ後、布巾で拭いているとサヴィが戻って来た。
「片づけてくれたのか。ありがとう」
「ううん、これくらいはね」
最後だし、とは言えなかった。
またうつむいてしまう私に、サヴィが何かを差し出す。
「これを。・・・・・・今日は、すまなかった。だが、助かった」
開いた手にのせられていたのは、可愛いお花のブローチだった。
「え・・・・・・これ・・・・・・?」
「以前、仕事の報酬としてもらった物だ。贈る相手もいないので、しまい込んでいた。よかったら、受け取ってくれないか?」
薄紅色のブローチは、夕日を反射してきらきらと輝いている。
もうすぐ夜になる。
サヴィが想定した帰還の時間だ。
私はそっとブローチを手に取った。
「ありがとう、サヴィ」
笑顔を作れたか、自信は無いよ。
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