帰還と別れの挨拶

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 どのくらい、ぼんやりと立っていたのだろう。  周囲がぱっと明るくなってようやく我に返った。 「わっ! 姉ちゃん!? そんなとこで何やってんだよ!」 「・・・・・・真治」  振り返ると弟が驚いた顔で立っている。 「つか、今までどこに行っていたんだよ!」 「・・・・・・帰ってきたんだよ」 「はあ? 話聞いてる? ・・・・・・姉ちゃん?」  弟の顔を見ていると、帰って来たんだなあ、と実感が湧いてきた。  今までのは夢? ううん、違う。  今もてのひらで光るブローチを見つめていると、なんだか視界がぼやけてきた。 「姉ちゃん!? 何泣いてんだよ!?」 「・・・・・・サヴィの」 「え?」 「サヴィの馬鹿!」  私は強くブローチを握り締めると、わんわん泣き出した。  弟が狼狽えているけど、それどころじゃない。  サヴィの馬鹿。  なんで、最後の最後であんなことしたの。  もう会えないのに。  どうして、なんて聞けないのに。  サヴィの馬鹿。  馬鹿・・・・・・。  私はその夜、子供みたいに泣きまくって皆を心配させた。  そのかわり、どこに行っていたのかはうやむやになって、追求されなかった。  母の風邪はすっかり良くなっていて、ひと言だけ。 「おじや食べたかった」  そう言われたのだった。
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