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「……帰ろう。駅まで送るよ。それぐらいはいいだろ?」
「うん……」
結局、明確な返事をすることができないまま、私たちの関係は、終わった。
※
まだ10月とはいえ早朝の空気は季節を先取りしていて、管楽器の冷たさがそれを物語っている。
だいたいいつも、私か祐樹が一番に音楽室に到着する。そこから他の部員が入ってくるまでの数分間が好きだ。
練習箇所の話に終始することもあるけれど、たわいない話に費やすこともある。
今朝は――
「田辺先輩、今日の昼休み、ちょっといいですか」
祐樹がその言葉を口にした後、数人が音楽室に入ってきて、それ以上聞くことができなかった。
私は頷くと、譜面台に視線を移し、マウスピースに息を吹き込む。
今月末の演奏会で私たち三年は引退する。有終の美を飾るべく、今は練習に専念しなくちゃいけない。そして、練習に打ち込むことで、祐也とのスッキリしない別れを早く忘れようとも思っていた。
でも、祐樹が私になんの話をするのだろうかと想像すると、祐也の顔がちらつき、集中力が削がれてしまって、練習は不完全燃焼のまま終わった。
昼休みになり屋上へ行くと、祐樹はすでに到着していた。
フェンスにもたれていた祐樹は私の姿を見つけると、柔和な笑顔を浮かべ、こちらに近づいてくる。
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