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「そうだ! 樹の言う通りだぞ、菜々! 俺たちはこんなに愛し合ってるじゃないか!」
「やめて! ほんとやめて!」
怒濤のように繰り広げられるテンポ感の塊とも言える会話に必死についていく。
……3人は仲がいいのかな。重かったはずの空気が彰さんの登場で一気に軽くなった。3人が一緒にいることでいいバランスを取れているように思える。
樹さんと彰さんが言うには、西岡さんと彰さんが本当の恋人同士らしい。西岡さんが樹さんに好意を持っていることは間違いなさそうだけど、一方的なものだと考えていいのかな……。
きょとんと3人の様子を見ていると、樹さんが私の方を向き、申し訳なさそうな笑顔で私の頭を撫でた。
「みーこ、ごめんな。変なのに巻き込んじゃって」
「いえ、あの……」
「おっ、樹、いつの間にそんなかわいい彼女できたんだよ! 紹介しろよ~水くせぇなぁ~」
「いちいち吠えるな。彰には関係ないだろ」
彰さんの大声に樹さんは耳を塞ぎながら、呆れたように言葉を吐く。
……樹さん、いつもよりも子どもっぽい?
そんな発見をしながらも、礼儀は大切だと気持ちを落ち着かせて挨拶をする。
「あの、こんにちは。坂本と申します」
「こんにちは! 山崎です。樹とは20年来の親友です」
「樹と親友だなんて調子乗るのもいい加減にしなさいよ。それに樹の彼女は私なんだからっ!」
「おまえ、まだそんなバカなこと言ってるのか? おまえはとっくの昔に捨てられたんだから、いい加減諦めて素直に俺の胸に飛び込んでこいよ!」
「はぁ? バッカじゃないの! っていうか、捨てられてなんかないわ!」
「いや、そもそも拾った覚えもない」
「やだ樹、酷い!」
まるでコントのようなやり取りと、いつもの西岡さんとのギャップに、見つめることしかできない。動物病院では憧れるほど大人っぽいのに、こんなふうに話していると親近感が湧いてくる。
「みーこ」
「樹さん」
「とりあえずここから抜け出そう」
「……いいんですか?」
「もちろん」
私にだけ聞こえるように、樹さんは私の目線の高さに身を屈める。西岡さんと彰さんはまだいろいろと言い合っている。
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