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「コタロウくんの様子はいかがですか? その後、お変わりはありません?」
「はい、元気過ぎるくらいです。毎日、部屋の中を運動会みたいに走り回ってます」
「ま、かわいい。でも本当によかった。雨も降ってたから、風邪を引かないか心配していたんです」
「本当にすみません、ご心配おかけして」
「いえいえ! 職業病なのか、仕事から離れていても患者さんのことが心配になってしまうものなんです。今、コタロウくんは?」
「仕事だったので留守番させてます。きっと今もひとりで遊んでくれてると思います」
「ま、お留守番上手のお利口さんですね」
口元に手を添えて微笑む仕草も、大人の女性で素敵だ。
そのとき、西岡さんの右手薬指に指輪が光っていることに気づいた。動物病院で会うときには見られないもので、シンプルながらもその存在感はなかなかのものだ。右手ということは結婚指輪ではなさそうだけれど、そのシンプルさから恋人とお揃いのものだろうと想像させる。
素敵な人なのだから恋人がいて当然だと思うのに、相手は誰だろうと勘繰りそうになった。思わず、相手が先生でありませんようにと願ってしまう。
「やだ」
「え?」
ふいに出てきた西岡さんの声に、私は彼女の指輪から目線を上げる。
「そんなにじっくり見られると、なんだか恥ずかしいわ」
西岡さんは照れた笑顔を見せ、指輪に触れる。私が指輪をじっと見てしまっていたことが彼女に伝わっていたらしい。私は慌てて謝る。
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