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ご飯を食べ終わり、コタロウは満足そうに口の周りを舐める。そして珍しく私に目線を移してくれた。
「おいしかった?」
そうコタロウに言ったとき、コタロウがにゃあと鳴いた。
「!」
今、私に呼びかけるように鳴いた? それに、怯えた様子もなかったよね……?
いつもとは違うコタロウの鳴き声が嬉しくて、私は感動のあまりその場から動くことができない。
「美夜子。コタロウ食べ終わった?」
「あっ、うん」
「じゃあ、お皿片付けてくるから、もらってもいい?」
「うん」
璃世の呼びかけで我に返った私は、コタロウを驚かせないようにそっと皿に手を伸ばす。でも私の心配をよそに、コタロウは怯えることも逃げることもなく、私をただじっと見ていた。
少しずつ慣れてきてくれているかもしれないと思ってはいたけれど、受け入れてくれているように感じるのは気のせいだろうか。
期待を胸に抱きながら、皿を手に取ろうとしたときだった。想像もしていなかった状況に、私は息をのんだ。
嘘……!
今、私の手の甲に触れているのは、コタロウだ。私の手が誤ってコタロウに触れてしまったのではなく、コタロウからすり寄ってきたのだ。突然のことに私は何が起こっているのかすぐにはわからなかった。
触れるぬくもり。ふわふわの柔らかい毛。ネコに触れたことがないわけではないのに、初めてとも思える感覚に気持ちが高まり、もっと触れたいという欲張りな考えを持ってしまう。私はゆっくり手を返し、震えそうになるのを抑えながら、コタロウの頬辺りにそっと触れる。
このときの私の頭の中には、コタロウに拒否されるかもしれないという考えはなかった。ただ嬉しくて、ただ触れたくて、仕方がない。コタロウを撫でると、コタロウは気持ちよさそうにしながら、さらに私の手にすり寄ってきた。
嬉しさのあまり、泣きそうになる。鼻がつんとして、目頭が熱い。
「……あったかい」
「あら。コタロウは美夜子のこと大好きなのね。よかったじゃない、美夜子」
「うん……」
璃世の言葉にも感激してしまって、さらに目に涙が浮かぶのを感じながら、私はコタロウの身体をゆるりと撫でた。
……それが、私とコタロウとのはじまりだった。
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