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――あのとき、璃世に声をかけてもらえなかったら、コタロウとこうやって一緒に生活することもなかった。そう思うと不思議な気分になった。コタロウがいなかったら私はどんな生活をしていたのかなと考えることがあるけれど、今の私はコタロウがいる生活が当たり前になっていて、その答えは見つけることはできない。
「さて、と」
そろそろ買い物にでも行ってこようかと、コタロウを部屋に入れようと思ったとき、ベランダからコタロウのにゃおという小さな鳴き声が聞こえてきた。
一緒に遊んでほしいのかなとベランダを覗くと、ベランダに設置されたネットの影をまとって、前足を折りたたむようにして座っているコタロウの姿があった。そのそばには、さっきまで遊んでいたねずみのおもちゃが転がっている。
「コタ、一緒に遊ぶ?」
部屋の中からコタロウに向かって手を差し出してみるけれど、コタロウは私をじっと見上げたまま動こうとしない。なんとなくコタロウの様子がおかしい気がして、私はベランダ用のサンダルを履いてネットをくぐるようにしてベランダに出る。そして、端に座っているコタロウに近づいた。
それでもコタロウは立ち上がろうとはせず、その様子をよく見ようと私はしゃがみこむ。日差しが当たって温かそうなコタロウの背中を優しく撫でると、コタロウの身体が震え、にゃっと濁った鳴き声を上げた。
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