5*幸せと罪と罰と

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*名前*  ある日曜日、私は部屋の窓から外を眺めていた。一昨日までの天気予報では晴れだったはずなのに、今日は朝からしとしと雨が降っている。  好きな人と想いが通じあってから、以前よりも視界が開けて世界が明るくなったように感じる。でも、今日は3人でひなたぼっこできると楽しみにしていたから、やっぱり予報通り晴れてほしかった。  空一面を覆う雲を見つめながら小さく息をついたとき、背後から声が聞こえてきた。 「んー、やっぱり、“みーこ”がいいかな。コタロウはどう思う? ん?」  虎谷先生は私の方を見ながらそう呟いたかと思えば、コタロウに目線を向けて訊ねる。さっきから何度かこの繰り返しだけど、コタロウは光の当たり方によってキラキラとカラフルに見える“ころりんぼぉる”を追いかけることに夢中で、返事どころか先生のことを見向きもしない。  “ころりんぼぉる”を追いかけるコタロウは、爛々とした瞳を輝かせていて、それはそれはもう、ハンパなくかわいい。  私はコタロウの喜ぶ姿を見るだけでにやけるのだけど、コタロウに“ころりんぼぉる”をプレゼントした本人である先生はなんだか拗ねた表情を浮かべている。コタロウが相手してくれないことが寂しいのか、彼は「なぁ、コター。コタコタコタロー」と何度もコタロウのことを呼び続ける。それでもやっぱり、コタロウの瞳が先生を映すことはない。 「仕方ないな」 「先生?」  先生はスッと立ち上がり、ローテーブルの脇に置いていた彼のバッグから、猫じゃらしを取り出した。 「本日の秘密兵器の“きらりんねこじゃらし”!」  私に向かって某アニメのように言うと、それをコタロウの前に上下させながら差し出した。するとようやく、コタロウの目線がハッと先生の方を向いた。コタロウは意地悪に動かされるそれを追いかけ始め、先生の顔に満面の笑顔が戻った。  その様子があまりにもかわいくて、私は思わず吹き出してしまった。  コタロウだけじゃなくて、先生もかわいすぎます!
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