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そのとき、突然キャリーバッグに男性の手が伸びてきて、私は身体を震わせてしまう。
「コタロウくんを診察室につれていきますね。飼い主さんもご一緒にどうぞ」
「あっ、はい!」
水色がかった上下の白衣を着た男性……虎谷先生は待合室にいる患者たちに何か言葉をかけ、診察室に入っていく。私はその後ろを必死についていくことしかできなかった。
診察室に入ると、コタロウがキャリーバッグから出される光景が目に入った。血で赤く染まってしまった前足が痛々しい。さっきよりも血が出ている気がして、涙が出そうになった。
私がちゃんとコタロウのことを見てあげてなかったから、こんなことに……。お願い、コタロウを助けて……!
「コタロウくんの身体を撫でていてもらえますか? 飼い主さんが触れていたらネコちゃんも安心しますから」
「は、はいっ」
言われるまま、私はコタロウの身体に触れる。身体が小刻みに震えていて、その温かさがいつもよりも低く感じてしまうのは気のせいだろうか。そう感じてしまえば、さらに不安が襲ってくる。
私はたまらず、処置を始める先生の手元を見ながら、問う。
「あの、コタロウは助かるんですよね?」
「もちろんですよ。ガラスか何か、鋭いもので切ったみたいですね」
鋭いものって、どうしてそんなものがベランダに?
考えてみるけれど、毛の隙間から覗く傷口が目に映り、血の気が引いていくのを感じて、それ以上考えることはできなかった。
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