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嫌な汗が出てくる。目の前がゆらゆらと揺れる感覚がする。でも、コタロウが苦しんでいるのに目をそらすことなんてできない。治療されるのとともに、コタロウの身体が時折小さく跳ねる。
胸にもやもやと渦巻く感覚を持ちながら、丸いシャンプーハットみたいなものをつけられて、傷周りの消毒や麻酔、毛を刈られて治療されるコタロウの足をじっと見つめていた。
「……さん、飼い主さん」
「えっ?」
すぐ横から聞こえてきた声の方を向くと、さっき受付にいたスタッフ……西岡さんの姿があった。私はぼんやりした頭で、その美人を見つめる。心配そうな表情をしているように見えるのは気のせいだろうか。
「大丈夫ですか? 顔真っ青ですよ」
「あ、大丈夫、です……」
「西岡さん、ちょっとはずしてもらおうか。待合室で休んでもらったほうがいい」
「そうですね。じゃあ、行きましょう」
「でも、コタロウが……」
西岡さんに優しく肩を抱かれ、コタロウから離れるように促されるけれど、私は抵抗する。こんなときにコタロウのそばを離れることはできない。コタロウが辛い思いをしているのに、目を逸らすことなんてできない。
私が動こうとしないことに気づいたのか、私を諭すような冷静な声が耳に入ってきた。
「コタロウくんのことなら心配ありませんよ。責任を持って治療します」
「虎谷先生の言うことを信じましょう。さ、こちらに」
「あっ、よろしくお願いします……!」
コタロウから手を離すのと同時に、先生は落ち着いた声で頷いた。決して温かさのある声ではないのに、私は不思議とその声に安心感を覚え、西岡さんに促されるまま治療室から出た。
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