147人が本棚に入れています
本棚に追加
/206ページ
再び樹さんがため息をつく。
「何度も言ってるけど、俺が好きなのは坂本さんなんだ。いい加減、わかってくれないか。これ以上、彼女を不安にさせたくない」
樹さんのまっすぐな言葉に私は息をのんだ。
どうして西岡さんの前でそんなことを言うの? 彼女なんでしょ? 結婚するんでしょ?
もう、樹さんのことがわからない。そう思っていると、樹さんは西岡さんに向かって頭を下げた。
「もうかき回すのはやめてくれないか。頼む」
「なんなのよ……っ、樹、いつから女のために頭を下げるような男になったの!? 昔から飄々としてる樹がカッコよくて好きだったのに! そんな情けない樹なんて見たくない!」
彼の行動に私だけでなく西岡さんも驚いているようだった。西岡さんは焦りと怒りを含ませた表情になり、さらに口調を強めて樹さんにぶつける。
「あんなにポーカーフェイスを決め込むのが上手いくせに……どうして坂本さんが関わるとそんなふうになるの!? どうしてそんなに簡単に崩れるの!」
西岡さんの言葉の意味が掴めず、頭の中が混乱する。
私の前での樹さんはいつだって余裕がある。私が動物病院に行ったときもクールな表情を崩すことはなかったし、プライベートで会うときも付き合うようになってからもいつも私をからかって余裕を見せる。
コタロウと接しているときや告白してくれたときには少し余裕のない表情も見せたけれど、それ以外はほとんどない。樹さんはいつも余裕のある大人だと思う。
最初のコメントを投稿しよう!