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「もうっ、悔しい!」
「何が悔しいんだよ。そもそも、菜々には彰(あきら)がいるだろ。彰のこと、ちゃんと好きなんだろ? 俺のことなんか構わずに彰だけ見てやれよ。そろそろあいつを楽にさせてやれ」
“彰”という名前が出てきた途端、西岡さんの頬が染まった。彼女は樹さんをキッと睨み、口を開く。
「樹の全部お見通しって態度、嫌い!」
「はいはい」
「女にデレデレする樹なんて、気持ち悪いんだから!」
「気持ち悪いって、さすがにそれは酷い言われようだな……え、彰?」
「菜々! おまえ、こんなところにいたのか!」
突然割って入ってきた男性の声に、思わず身体が跳ねた。樹さんと西岡さんも目を丸くしていたけれど、西岡さんの表情はすぐに険しいものになる。
「なんでここにいるの!」
「明日休み取れたから、帰ってきたんだよ! 何度電話しても出ないし、家に行ってもいないし、心配になって探しにきたんだよ。ていうか、まだ拗ねてるのか? いい加減、機嫌直せよ!」
「嫌っ、大事なときに帰ってきてくれない彰なんてもう知らない! やっぱり私、樹にするって決めたの! 樹はドレス選びにも付き合ってくれたのよ!」
「樹? って、うわ! 樹、久しぶりだな!」
樹さんの存在に気づいた彼は嬉しそうに笑いながら近づいてきて、樹さんの肩を強かに叩く。
……この人が彰さん?
樹さんとはタイプは違うけれど、身長が高くてスタイルもよく、明るくて人に好かれそうなタイプの人だ。樹さんが少し面倒そうに息をつき、口を開く。
「……久しぶり。それよりも菜々、俺の同意もなく勝手に決めるなよ。この前付き合ったのは、結婚をやめるとか言い出すからだろ。彰が忙しいのは知ってたし、仕方なくだな」
「それでも付き合ってくれたのは事実でしょ!」
「樹おまえ、またさらに男前になりやがって……くそ、羨ましいぜ! 何度も言ってるが、菜々は渡さないからな!」
「あー、ふたりともうるさい……」
どうも噛み合わない会話に樹さんが頭を抱える。
「彰! 樹にいちいちつっかからないでよ! 見苦しいわ!」
「菜々も同類だろ。お騒がせカップルもいい加減にしないと、ただの迷惑だからな」
「やだ樹、こんなやつとカップルにしないでよ!」
「いや、正真正銘のカップルだろ」
西岡さんの訴えに指摘しながら樹さんが深くため息をついていると、彰さんが嬉々と樹さんに同意する。
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