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「じゃあ、彰、菜々、後はふたりで解決しろよ。菜々に寂しい思いをさせた彰が悪いんだからな。これ以上、俺を夫婦喧嘩に巻き込むな」
呆れたように言った樹さんに、西岡さんと彰さんの息の合ったユニゾンが返る。
「夫婦じゃないわよ!」
「夫婦喧嘩は犬も食わないってか? 樹は相変わらずうまいこと言うな! ていうか菜々、俺がいなくてそんなに寂しかったのか?」
「猫撫で声はやめて!」
西岡さんの結婚相手は樹さんじゃなくて彰さんなんだ……。動物病院で患者たちが話していたのも、今の会話通りだ。
じゃあ、何も心配しなくていいの? ……これからも樹さんと一緒にいれるの?
「ねえ樹! 彰との結婚なんてやめるから、私の彼氏になってよ! 絶対にいい思いさせてあげるから」
「バカ言うなよ! 俺がどれだけ苦労して結婚までこぎつけたと思ってんだよ! 樹は邪魔するし、菜々はこっち見ないし、苦節15年をなめるなよ!」
「待て。俺は邪魔した覚えもないし、むしろ彰には協力してるだろ」
「そうだっけ? ていうか、菜々逃げるなよ!」
「やだ、離してよ! もう彰なんて知らないんだから!」
「嫌よ嫌よも好きのうちって言葉、知らねぇのか!?」
「意味わからないこと言わないで! っていうか、どうして大事なときに帰ってきてくれないのよ……っ!」
「だから、新婚旅行のためだって言ってるだろ!」
会話の節々から少しずつ西岡さんの気持ちが見えてきて、応援したくなった。彰さんがいないことがただ寂しくて、信頼できる樹さんに甘えていたのだ。私よりもずっと大人だと感じていたけれど、普通の女性なんだ。
「帰ろうか、みーこ」
「大丈夫、ですか?」
「いつものことだから大丈夫だよ。菜々……じゃなくて、西岡さんのアマノジャクは彰に任せておけば安心だ」
「はぁ……」
樹さんは私の手を取って歩き始める。私はそのぬくもりにホッとしながら、彼の後ろをただ着いていく。
西岡さんと彰さんはというと、私たちが去っていくことには気づかず、ふたりで言い合う声がしばらく聞こえ続けていた。
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