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「散歩?」
「はい。買い物帰りにちょっと休憩してました。先生もお散歩ですか?」
「うん、まぁそんなとこ」
先生は頷きながら一瞬ベンチに目線を落とし、再び目線を上げるのと同時に口を開く。
「コタロウは留守番だよな?」
「はい。お昼寝してたのでその間に買い物しようと思って。そろそろ起きて遊んでそうですけど」
「そっか。室内飼いは基本だもんな。外は危険がたくさんだし」
「そうですね。コタロウは最初から家の中で生活してるから、部屋の中だけで満足してくれるんです。外を飛んでる鳥とかには興味を持つこともありますけど、外には興味はあまり示さないので助かってるんです。ネコちゃんによっては外に脱走したりして大変なんですよね?」
コタロウを譲ってもらうとき、璃世にも「脱走には気をつけて」と何度も念を押された。マサコちゃんは外には出たことはないらしいけれど、近所のネコちゃんがよく脱走しているらしい。探すのを手伝ったこともあるらしく、その大変さをよく知っているのだという。「見つかればいいけど、帰ってこないとむなしいだけだからね」と言っていた。
「ああ。よく病院にも脱走して怪我して帰ってきたから診てほしいってよく来るよ」
「やっぱりそうなんですね。私も気をつけないといけませんね」
「ああ。大切な家族だからな」
「……はい」
先生がコタロウのことを“大切な家族”と言ってくれたことが嬉しくて顔が緩んだ。今、私のそばにいてくれる家族はコタロウで、いつも私を癒して助けてくれている。依存とまではいかないけれど、今の私にとっては本当の家族と同じくらいいなくてはならない存在だ。
「でも、そっか。コタロウいないんだよな」
「先生?」
「いや、うん」
先生の笑顔に寂しさが含まれているように思えて、私は首を傾げる。でもすぐに、ふと気づく。もしかして先生は……。
「先生」
「ん?」
「コタロウに会いたかったですか?」
「あっ、いやいや」
否定しながらも照れたように笑い飛ばす先生の表情がかわいくて、思わず頬が緩んだ。
ネコが大好きって言っていたし、やっぱりコタロウに会いたいんだ。
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